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2020.09.18

論文刊行のお知らせ

Sensory processing sensitivity and culturally modified resilience education:
Differential susceptibility in Japanese adolescents

著者 Kibe, C., Suzuki, M., Hirano, M., & Boniwell, I. 

掲載誌 PLOS One (2020) 

感覚処理感受性(i)と文化適応的レジリエンス教育:
日本人青年の差次感受性(ii)脳内の情報処理基盤に由来する
生得的な感覚特性であり、Aron(2002)は感覚処理感受性が
高い子どもをHighly Sensitive Child (HSC)と呼んでいる。
 

本研究では,都内私立高校で長期留学を控えた生徒の予防的心理支援として
レジリエンス教育を導入するにあたり,英国で開発された
SPARKレジリエンスプログラムを現場に即してローカライズし,
実践を通して効果を検証することを目的としました。 

教員などとの協議を経て,日本の高校生に馴染みやすいよう
プログラムの調整(iii)を行い,スクールカウンセラーが
レジリエンス教育を実施しました。

受講した高校1年生407(iv)(男子=192,女子=215)は
プログラム前,後,3か月後のフォローアップ時に
自尊感情,自己効力感,レジリエンス,抑うつ傾向を
問う質問紙に回答しました。 

得られたデータはプログラムの全体的な効果検証に加え,
個人差に着目したDifferential Susceptibility Theory(感受性反応理論)(v)
の観点から検討されました。

分析の結果,生徒全体の自己効力感が有意に向上したことが
見出され,レジリエンス教育に効果があることが示されました。

しかし,その他の指標では統計的に有意な変化は見られませんでした。 

そこで,生徒の個人差に着目してさらに検討を加えた結果,
感覚処理感受性の高さが抑うつ傾向の低減,自尊感情の向上を
予測することが示され,事前調査で抑うつ傾向が高く,
自尊感情や自己効力感を低く報告していた,感受性が高く,
いわゆるストレスを感じやすい生徒にプログラムの効果が
あったことが示唆されました。

本結果は,同じプログラムを受けても,
効果には個人の感受性の差が影響を及ぼすことを
実証的に示すものとなりました。 

【論文アクセス先】
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0239002

参考 

岐部智恵子(2019) 敏感性の高い子どもと環境からの影響:感受性反応理論からの示唆 子ども未来紀行 Child Research Net https://www.blog.crn.or.jp/report/02/265.html 

i 脳内の情報処理基盤に由来する生得的な感覚特性であり、Aron(2002)は感覚処理感受性が高い子どもをHighly Sensitive Child (HSC)と呼んでいる。 

ii 環境からの影響の受けさすさ(被影響性)の個人差のこと。

iii プログラムの調整は①授業時間内に実施できるようプログラムの短縮,②日本の生徒に馴染みやすいよう事例や文言の調整,③心理的概念の理解促進のため「感情」と「認知」の導入順序の入れ替えを行った。特に,③の背景には先行研究からも指摘され,対人関係などでも観察される文化差が考慮された。 

iv 実践校で蓄積された3年分のデータを用い,統計的に分析した。 

v 従来は脆弱性(傷つきやすさ、もろさ)とされてきた個人の感受性の高さを中立的に捉え直し,ポジティブな環境では可塑性(変化可能性)として機能し得るとする立場。 

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